お姉さま達の暗黙の了解
  

 

 

 

カウンターバーに座る美女二人は、それぞれに長い足を組んで酒を飲み交わしていた。
「はぁ・・・嬉しい。女同士で心ゆくまでお酒が飲めるなんて本当素敵ね」
「酒豪仲間は貴重だからね」
「本当!ね!日本酒飲みたくなぁい?この後どこか行きましょうよ」
「ええ?今カクテルなのに?ちゃんぽんになるわよ」
「飲〜み〜た〜いっっ」
「ダメよ、二日酔いなっちゃうわ。いい女はスマートな酒飲みであるべきよ」
「え〜、しょうがないなぁ・・・じゃあ、明日も付き合ってv 今度は日本酒飲みに行きましょ」
「明日ぁ?」
「あら、だって私明後日には帰らなくちゃいけないんだもの」
ぷくぅと頬を膨らませる・・・またその仕草がよく似合う女性を見やり、もう一方の女は呆れたようにため息をついた。
「そんな私とばっかり一緒にいていいわけ?」
「うん?」
「最終日くらい誘う男がいるでしょう?」
にやりと笑う女に、にこりと笑う女は答えた。
「"誘う男”なんていないわ。"誘ってくれる男"ならいるかもしれないけどぉ、そんなの私わかんなぁい」
「言うわねェ」
「し・か・も、今日まで全然オファーがないのよ?そんなの一々カウントしてられないわ」
二人は顔を見合わせて、それぞれにものを含んだ笑みを深めた。
「ねぇ、今日はお子様も男性もいないのよ?」
「・・・・で?」
「ぶっちゃけシークレット・トークしない?」
酒豪二人は笑いあいながら、追加注文した。
「マスター、マティーニ追加」
「ええっと、じゃぁ私はブラックルシアン」
「はぁ?ブラックルシアン?」
「いいじゃない。好きなのよ」
「・・・日本酒飲みって、もしかして、甘口派?」
「熱燗大好きよv もっと言えばぬる燗が一番好きだけど?」
「・・・・おやじねぇ」
チョコレートをつまみながらブラックルシアンを待つ女に、横の女は肩をすくめた。




「ちなみに、今年中に結婚する気ある?」
「・・・ないわね」
「候補はいないの?」
「付き合ってる男ってこと?」
「そうそう」
「うぅん、今遊んでる男達はなぁ。そこまで考えてないわ」
「やぁんモッテモテ!ちなみにそれは滝川さん?」
「はぁ?坊主?!遊んでいる内にもはいらないわよあんなの。第一金持ってないし」
「あら残念」
「そういうあんたはどうなのよ?」
「私?いないいない。いいの、私は仕事が恋人なんだから・・・・機械には一方的に嫌われているけど」
「そんなどっかの部下みたいなこと言って」
「・・・・それもそうね。しかもあの子は今年中に結婚するつもりだしね」

 
 
にこやかに微笑む女の一言は、何気なくも威力絶大。

 

女二人はそれぞれに思うところがあって、示し合わせたように押し黙った。
話題の二人の恋愛ぶりは、喜ばしいことのはずなのだが、想像するだに何だか無償に胸苦しい。
それでいいと思えたりもするはずなのだが、それは時々激しく揺らぐ。それが結婚・・・・
居心地の悪い沈黙に、先に耐え切れなくなったのは、マティーニを注文した女だった。 
「・・・・・・・・・22歳で結婚なんて早過ぎるわよね」
思い描く花嫁に対して、その姉役を買ってでている女はぽつりと呟いた。
その言葉に、俯いていた女は思い直したように顔を綻ばせた。
「でもそれで彼女がこっちに来てくれるのは万々歳だわv」
「部下に先を越されても?しかもありえないようなヤツに」
「いいの!この展開は私にはメリットの方が大きいわ」
「まぁた強がり言っちゃって」
「本当よぉ。別に結婚焦っているわけじゃないし」
「まぁ・・・それはそうよね。第一結婚が人生の幸せとは言い切れないしね」
「でしょ?それにそれであの子も帰国してくれたら、私の仕事が格段に減るのよ!そろそろ対外的にも庇護を求めるような歳じゃないんだから、保護者役はお役ごめんこうむりたいわ」
明るく笑う彼女の声は、悪戯心をくすぐった。その悪戯心は口をついて出た。 
 
 
 
「リンも帰国するしね」
 
 
 
しかし、胸を一突きしたつもりの言葉は、瞬時に明るいハートマークでガードされた。
「ねv」
「・・・・・」
「ん?」
強いカクテルを甘露のように飲む唇を見つめ、出来心を起こした女はため息をついた。
「本当に手ごわいわねぇ、あんた」
「あら?何のこと?」
苦笑する女に、微笑む女は白々しくとぼけた。
それから酒豪二人は恥ずかしいほど大量のカクテルを飲み終え、上機嫌で店を出た。
夜風は冷たく、上気した頬を心地よく冷ました。
 
 
 
 
 
 
「松崎さぁん」
「綾子でいいわよ。森女史」
「ヤダそんな他人仰々しい呼び名。しかも老けて聞こえるぅ。まどかって呼んでくれなきゃ泣いちゃう」
「はいはいはいはい」
「それじゃぁね。綾子。また飲みましょうv」
「明日も飲むって言い出したのはまどかでしょう」
「明日も飲むけど、その後も飲みましょう」
懐くまどかに、綾子はくすりと笑った。
その笑みが嬉しかったのか、まどかはごろごろと喉をならして綾子の腕にすがった。
「今度は綾子がイギリスへ来るのよ?」
「あら、いいわね。本気で行こうかしら」
「リンもいるからねv」
一瞬虚をつかれた綾子に、まどかはしてやったりと口元を歪めた。
しかし綾子も負けじとにやりと笑みを浮かべ返した。
「それもそうね」
酒豪女の飲み会は楽しい。
ざっくばらんな腹の探り合いすら、そこでは楽しい遊戯になる。
ちょっと行き過ぎたとしたら、それはみんなアルコールのせいにすればいい。
どうせ明日になれば、都合の悪いことはみんな忘れる。そういうことになる。





それは酒豪の暗黙の了解。

 

 
 
 
 

言い訳・あとがき

さて、私は一体何が書きたかったんでしょう・・・。とりあえずお姉さまを書きたかっただけです。
深い意味はありません。ええ!ありませんとも!おっかない。

2006年6月10日