誕生日を目前にして、谷山麻衣は決断した。

もう、アレ(彼氏)にサプライズは期待してはいけない、と。

 

 

7月3日生まれ

  

  

突如、紅茶と共にデジカメ持参で所長室に現れた麻衣を、部屋の主は怪訝な眼差しで見上げた。

「何んだそれは?」

「デジカメ」

「そんなことは見て分かる。それが何故、今、必要なんだ?」

「写真撮るからに決まってるじゃない」

「何の?」

「ナル」

「・・・・・・」

「ね?写真撮らせて」

「却下」

「いいじゃん一枚くらい!」

「毎日顔をつきあわせているのに、何を今更写真なんかが欲しいんだ」

「欲しい!」

「意味不明」

「だって今日は7月3日なんだよ!」

「それが・・・・」

どうしたと言いかけて、麗しの所長様は、そこで不機嫌そうに眉根を寄せてこくりと言葉を飲み込んだ。

その様子を目撃した部下かつ恋人は、してやったりと笑顔を浮かべ、喉をならした。

「ほらね、3年連続」

「・・・・」

「ナル、今年も私の誕生日忘れてたでしょう!」

「・・・・」

「まぁ・・・もうねぇ、私もナルにそういうことを期待するのはいい加減諦めたよ」

「・・・・」

「だから、せめて誕生日には私が欲しいものが欲しい。だから写真撮らせて!」

不機嫌な上司はその整い過ぎた美貌から表情を消し去り、満面の笑みで詰め寄る恋人を見上げた。

「その欲しいものが僕の写真だと?」

「そう!だってナルの写真って一枚しか持ってないんだよ!ジーンと映ってるの」

「大変貴重な品だ」

「それはわかるけどぉぉぉぉ。今のナルの写真も撮っておきたいの!!」

高い声で騒ぐ麻衣に、ナルは内心辟易した。

平素なら一蹴して終わることだが、今日は運悪く7月3日。3年連続で忘れていた麻衣の誕生日。

もちろん本気で忘れていたナルに手持ちのカードは何もなく、これから何か考えるのも鬱陶しい。

ならば本人が望むものを与えてやる方が効率がいい事は自明の利だ。

ナルは一瞬の間にそう考えると、駄々をこねる麻衣を指で呼び、近寄ってきた麻衣の手からデジカメを取り上げた。

「あ!何するんだよ!!!」

慌てて取り替えそうとする麻衣の肩に手を回し、ナルは不穏な笑みを浮かべた。

「確かに、僕は麻衣と写真を撮ったことがなかったな」

そして、ナルは肩を掴んだ掌に力を込め、強引に抱き寄せた麻衣に極上を笑顔を晒し、

 

パシャ

 

その唇にキスをしたままシャッターを切った。

顔を真っ赤にして固まる麻衣を膝に乗せ、ナルはデジカメのデータを確認すると、まぁいいだろうと呟き、カメラごと

麻衣に放り投げた。麻衣があわててそれを受け取ると、ナルは後は好きにしろと言い置き、すぐに興味を失ったよ

うに手元の書類を引き寄せた。

「・・・・・・・・・・・・・・どういうこと?」

それでも麻衣が詰め寄ると、ナルは無情にも麻衣を膝から落とし、所長室の床に座り込む麻衣を見下ろして、大変

美しい笑みを浮かべて言った。

 

「誕生日プレゼント。欲しかったんだろう?写真」

  

 

7月3日、22歳の誕生日。

麻衣は手に入った貴重な写真データの扱いに、一日中苦悩した。

 

 
 
 
 

 

言い訳・あとがき

麻衣誕生日おめでとう〜〜〜、で、ss書いてみたのですが・・・コレ・・・・麻衣の誕生日?
麻衣自身にはイイコトいっこもない・・・・せめて安原の目には触れないように、祈ってあげてください。

2006年7月3日


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