ごく稀に、くだらない夢をみる
 

  

  
 
 
 

 


  



「ナル〜」
 

 

 

聞きなれた声が、自分を呼ぶ。
       

「お茶だって、冷めないうちにテラスへ行こう」
       
その声に意識を書類から引き上げると、見慣れた顔の声の主は無駄に上機嫌に笑っていた。

言葉は誘惑なのに、態度は強引で、彼は問答無用で僕の手を引く。

ため息をつきながら付いて行くと、窓の外は真っ白になるほど日が照っていた。

日の光がまぶしくて顔を顰める。その光の中で麻衣が手馴れた様子で紅茶をいれていた。
     
「ナル、お茶にしよう?」
     
僕達の到着に気が付くと、麻衣は笑いながら高い声で宣言した。

わざわざ抵抗するのも面倒なので、言われたとおり椅子に座る。

その様子を二人は眺め、囁くように笑い合いながら温めたスコーンをシェアした。

その様子は傍目に見たら微笑ましいものなのだろうが、少々仲が良すぎる。

「麻衣」

声を上げると、麻衣はカップを持ったままこちらを向いた。

「お前はココ」

隣の席を指差すと、麻衣は顔を赤らめ、傍らに立つ彼は愉快そうに声を上げて笑った。笑い声は癪に触るが、せせ笑えるほどには軽い。

実際に口元笑みを浮かべれば、彼は面白くなさそうに口を尖らせた。


《 ナルの意地悪 》
  

  

声にならないホットラインに

 

 

 

僕は

何故か

ひどく

驚く。
 

 
思わず呼吸を止めていたことに気がついて、我に返る。
おかしな話だ。これは日常的にあることではないかと、僕は直ぐに驚きを意識の外に外す。その間に麻衣は隣に腰を下ろし、日の光にも負けない突き抜けるような笑顔を浮かべた。僕はそれを視認するとすぐ、視線を手元の資料に落とした。振られた彼は正面に座り、その様子を眺めてため息をついたが、すぐに気を取り直して麻衣に新しい話をふった。

耳に響くのは、楽しげなテノールと、笑うソプラノ。

日の光が背中を温め、手元の資料を明るく照らす。

――――まぁ、悪くはない。

僕は温められたティーカップに手を伸ばす。












そこで世界はホワイトアウトする。












僕は、目を覚ます。










ごく稀に、こんなつまらない夢をみる。


実際にそうなることなど希望していないし、第一ありえない。

あまりの下らなさに、夢から醒めると酷い倦怠感に襲われる。

どうしても夢をみるというならば、もう少し有意義な夢をみたいものだと思う。

それでもこの夢はことあるごとに気まぐれに、繰り返し繰り返し再生される。


まるでその世界が、僕の一番の望みであるように。
  

 
 

  

 

言い訳・あとがき

これもナル麻衣同盟の為に書いたのですが・・・一度見てみたかった、平和主義妄想博士。

2006年4月17日