違った日本語

〜  正しくは 「 雉も鳴かずば撃たれまい 」  〜
 

  

  

    

舌戦で麻衣などに負ける気はしない。

 

 

そんなナルにとって、なしくずし的に麻衣を伴ってホテルにチェックインすることはわけのない話だった。そんなつもりはないと強情を張っていた麻衣も、今では充実したアメニティグッズに大騒ぎしながらシャワーを使っている。

 

ひょうたんから駒。
棚からぼた餅。

 

ナルが日本の諺に詳しければ、正しくそんな状況を満喫していたということになる。
しかし、先ほどからそんな状況を妨害するものが発生し、ナルの機嫌は明らかに悪かった。

 

 

ブルブルブルブルブルブルブルブル

 

 

テーブルの上で再度震える麻衣の携帯電話。
いいわけできないと麻衣は無視して電話に出ていなかったけれど、電話の主は間違いなく電車で鉢合わせた高野の密教層で、その存在感は明らかに二人の時間を邪魔していた。
諦めた
かと思えば再び鳴り出すコール。その執拗さはストーカーの域だ。
ナルは不機嫌に腕組みをしたまま麻衣の携帯電話を見下ろした。
邪魔臭いことこの上ない。
しかも男(ぼーさん)からの横槍に他ならない。
麻衣の使うシャワーの水音はまだやみそうもない。
ナルはそこで躊躇うことなく麻衣の携帯電話を取り、細い指で通話ボタンを押した。

 

――プツッ

 

『 おう、麻衣。ようやく出たな!無事に帰ったか? 』
受話器からは予想たがわぬ現金な声が響いた。その声にナルは人知れず眉根を寄せた。無言でいると、話し相手は怪訝に思ったのか、心持ち柔らかい声を出した。
『麻衣?どうした?』
何をするつもりもなかったが、その声はただひたすらに不快だったので、ナルは殊更丁寧かつ簡潔に述べた。

 

「取り込み中だ。邪魔するなぼーさん」

『・・・・・・・・・・!!!!!!!!ナル!?』

 

そして無意味な絶叫まで聞いてやる必要はないと、ナルはそのまま通話を切った。

 

ちなみに長押し。

 

電源OFF。

 

 

 

 

 

 

シャワーを終えた麻衣がバスルームから出てくると、ナルは機嫌良さ気にソファに寛いでいた。突如良くなった機嫌の意味が分からなくて、麻衣は首を傾げながら尋ねた。

「どうしたの?」

頬が上気している麻衣を見上げ、ナルは口の端を僅かに吊り上げた。

「麻衣、こういうことを日本語では何と言うんだ?」
「何が?」
「黙っていればいいのにという意味」
「諺?・・・だったら 『 沈黙は金なり 』 かな?」
「・・・ふぅん」
「どうしたの?」
「なんでもない」

そうして、機嫌の良くなった博士は、一つ間違った日本の諺を身につけた。




 
 

 

  

 

言い訳・あとがき

1000hitsカウントゲッターひかるさまのリクエスト。
「アレは悪魔に違いない」に近いテイストのssということでお届けしました。
自分で言っておいてなんですが、どこがひかる様のツボだったのか分からなかったので、とりあえず

1・パパなぼーさんが登場する
2・パパなぼーさんが悲鳴をあげる
3・機嫌のいい博士が登場する
4・おまけがついている

以上4点を踏んでみました。返品可能です。ゴミ箱行きでもOKですが、まずコレが精一杯です。ひかる様、リクエストありがとうございました!♪

2006年6月3日 あこ拝