「 だからね、時を遡るなんて必要ないんだ 」
僕がそう言うと、2階子ども部屋の窓枠に寝そべっていた青い色をした猫は不満そうに尻尾を振った。
:::::: 4th 未来の未来
青い色をした猫はまじまじと僕の顔を覗き込んで続けた。
「話ができる人間がいるからって、ご主人様がわざわざ君の所まで僕を寄越したのに、君はこのチャンスがいらないって言うの?」
「せっかくだけど・・・・」僕が肩を竦めると、青い猫は理解できないといった風に首を振った。
「タイムワープの意味を君はよく分かっているのかい?」
「多分理解していると思うよ」
「こんなチャンスは中々ないと思うんだけど?」
「そうだね、まるで日本のマンガみたいだ」
「騙されたと思って一度試してみればいいのに」
「僕を騙すの?」
「そうじゃないけど・・・」青い猫はそう言うと、じれたように更に強く首を振った。
ある日突然未来からやってきたというこの青い色をした不思議な猫は、今まで聞いた声のどれとも違う不思議な声で、驚く僕に過去にタイムワープさせてあげようと言い出した。
聞けば青い猫の飼い主は僕の子孫で、飼い主は先祖の不幸な過去を取り除いてしまおうと、この猫を僕の所に届けたそうだ。
そんな " せっかくの " 申し出をすげなく断る僕に、青い猫は大きな目を細めて鼻を鳴らした。「君は勇気がないんだな」
「ふふ・・・そうかもしれないね」
「・・・・ここは笑うところじゃない」
「そう?」
「そうだよ。せっかくのタイムワープのチャンスだ」
「君の話が本当だったらね」
「本当さ!これで君のママが助かるかもしれないのに」
「ママは生きているよ?」
「そうだけど・・・」
「パパも生きてる」
「・・・」
「優人も僕も生きている」
「・・・」
「そうして互いが大切だって分かっている。ファミリーにこれ以上必要なことはないんじゃないかな?そりゃ確かに、ママの健康が奪われたのは本当に悲しいことだけど、その事があったから僕らは昔よりずっとそういうピュアで大切な事を理解できるようになった。こんなことでもなければ全部理解することなんてなかったと思う。だからね、勝手に一つの事だけ取り上げて不幸だなんて決め付けないで。ここにも貴重な幸せは生まれているんだから」
「・・・」
「過去は簡単に変えていいものじゃないよ」青い猫は僕が全然取り合っていないことが分かると、猫のくせにふぅっとため息をつき、やがて諦めたように耳を伏せて呻いた。
「ご主人様になんて言えばいいんだ」
そのしょぼくれた様子があんまり可愛らしかったので、僕は笑って青い猫の頭を撫でた。
「 幸せだから、心配しないでって言ってくれると嬉しいな 」
僕はもともと幽霊やら何やらをよく見る性質で、多分年の割には人の心については色んなことを知っていると思う。
お陰で随分臆病で慎重な性格になったと思うんだけど、口の悪い優人に言わせれば " 天使の顔した悪魔 " になるらしい。酷い例えだけど、顔ほど無邪気に育ちはしなかったと意味ならまんざらでもない。
素直と分かりやすいは別物だもの。
それでもこれは本心。
これだけは真実だと思う、少ない事実だと僕は信じている。
Thenks Event2 END