「 助けてくれた恩返しがしたいな 」
ある日、側溝に嵌りこんで動けなくなっていた猫を助けると、助けてやった青猫は唐突にこんなことを言った。
「けれど残念ながら今日は十分な準備がない。簡単なタイムトラベルくらいしかしてやれないけど」
青猫はそう言うと細身の身体をしなやかに伸ばし、ゆたりと笑った。
「どこか行きたい時代はあるかい?」
猫が喋ることにも驚いたが、そもそも猫が青色というのもおかしい。
さすればこれは夢なのだろう。
僕はそう結論付けると考える素振りをしながら周囲を伺い、近くにあった反射鏡に映りこむ自分の姿を見つめた。
学内行事の為、その日の僕の服装は青猫を助けた時についた汚れはあるものの上から下まで真っ黒で、まるでどこぞの冷血漢のようだった。
その姿に僕は一つの思いつきを口にした。
「25年前の東京」
僕の提案は青猫の気には染まなかったらしく、青猫はせっかくなのに地味だと唸って顔を顰めたが、それでも恩人の希望を叶えてやることを優先したらしく、ひらりと横の塀に飛び上がると、その場ですっと背筋を伸ばした。
「では早速望みを叶えよう」
「・・・・ちょっと待て、もちろん帰ってこれるんだろうな?」
僕の問いかけに、青猫は鼻白むように鼻先を上げた。
「当然だ、旅は帰って来ることが前提だ。行ったままでは旅とは呼べない」
心配しなくても5時間もしたら自然に戻ってくるさ。
青猫はそう言うと、高名な童話のチシャ猫のように狡猾に笑った。
「君の名前を教えてくれたまえ」
僕はその笑みに胡散臭いものを感じながら、ぶっきらぼうに名を名乗った。
「ユート・デイヴィス」
青猫は、いい名だとほくそ笑み、次の瞬間目の玉をこれ以上ないってくらいに丸く見開き、細長い尻尾をぴんと伸ばした。
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未来の過去
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