気がつけば、そこは夕闇せまるいつもの通学路だった。

 

「面白かったかい?」

 

道を区切る塀の端に座り込んで丁寧に毛づくろいをしながら、青猫は愉快そうにそう尋ねた。

     

:::::: 10th 未来の過去

      

酷い車酔いの後のように視界が回って気分は最悪だったけれど、その気味の悪いニタニタ笑いを見るとそれを素直に言ってやる気は失せた。
僕はそれと悟られないように息を吸って足の指に力を入れた。

「まぁまぁ」
「だからもっと面白い時代へ行けば良かったのに・・・」

ちっとも残念がっていないような声色で、青猫は残念そうにそう言うと、前足をぺロリと舐めて突然とうとうと語りだした。

「25年前ではユートの両親はまだ恋人じゃなかっただろう?」
「は?」
「それはそうだ、この年の夏に君の両親は仕事で海岸沿いの旅館に行く。
その帰り道で偶然父上が探しものを見つけて、そうなってからようやく母上が父上の正体を知るんだもの。恋愛なんてまだまだ先の話さ」
「な・・・・んで」
「面白くなるのは25年前よりももうちょっと後のことだったんだんだ」
 
青猫はそう言うと、あっけに取られる僕を見て、にやりと潜み笑いをした。 

 

「様々な夢が見れるくらい、その時のユートの両親は面白かったんだよ?」
 

   
青猫はそれだけ言うと満足したようで、まるで本物の猫のようににゃーんと一声鳴き、するりと塀の陰に姿を消した。
そうして気が付けば、猫の気配はまるで最初からいなかったかのようにすっかり消えていて、僕の服もぼーさんに貸してもらった趣味の悪い服ではなくて、最初に着ていた黒の上下に戻っていた。もちろん濡れてもいない。

 

 

  
  
  
――― やっぱりこれは夢だろう。

 

 

 

 
 
僕はその確信を新たにした。
それでも青猫の言動が気になって勿体無かったのかもしれないと少し後悔したが、直後にやっぱりこれで良かったのだと思いなおした。

 
あの過去の続きを見たければ、僕は家に帰ればいいのだ。

 
そこはまぁ色々問題はあるけれど、昔に還る必要がないくらいの未来ではあると思う。
少なくとも、麻衣や真砂子さんがアイツに片思いしていて苦しんでいるなんて過去よりはずっとマシだ。
生憎だが、胸糞悪くなるようなラブシーンだって目にできるんだから。
僕は青猫に言い損ねた言い訳を考えつつ、未来に帰るべく家路についた。

   

Thenks Event1 END