変態発言を正面から受け止めたぼーさんはそのまましばらく固まっていた。
その無様な態度は僕の溜飲を少し下げた。
:::::: 4th 未来の過去
今も昔もぼーさんはぼーさん。
迂闊なところとそこから復活するバイタリティーは変わらないらしい。
そそくさと着替えて何気なく見遣っていると、衝撃から辛うじて復活したぼーさんはごほごほと咳き込みながらも必死に冷静さを装って尋ねてきた。「家帰るんだったら車で送ってやるけど、ナルちゃん家ってどこらへん?」
そうして固まったのは、今度は僕の番だった。
当然その当時のアイツの住居なんて知らない。
思い付きで25年前を指定してしまったけれど、17歳のアイツの情報は既にケンブリッジに在籍していて博士号を取得し、亡くなって失踪した兄を探す為にSPR日本支部を開設して日本に移住していたこと。なおかつ、18歳で兄を発見するまで自分の身元を隠していたことくらいだ。
つまりそう考えれば、アイツの立ち居地すら僕はよく分かっていない。
僕はそこで沈黙した。
後はどれだけ記憶を振り絞っても、麻衣が寝物語に繰り返し語り聞かせてくれた当時の事務所の場所くらいしか覚えていない。
そこで僕は心なしか好奇心で鼻の穴を大きくしているぼーさんにその場所を伝えた。
渋谷
ぼーさんはその地名に「事務所かよぉ」と不平を漏らしつつも、それなら近くまで連れて行ってやろうと言って車のキーを鳴らした。
そうして連れられた25年前の渋谷道玄坂は、25年後の渋谷と変わらず雑多で、煩雑な活気に満ち溢れ、人で溢れていた。
何が違うかと言えば、道行く人間の誰一人として携帯電話を持っていないということくらいだ。
ぼーさんが運転する車はその最難関と思しき人ゴミを抜けると、少し人気のない路肩に止まり、僕を降ろした。
「この辺路駐できんから俺はこのまま帰るわ。皆によろしくな」
「・・・ああ」
「それから服は気にしなくていいから。良かったらそのまま着てくれや」
冗談。
と、反射的に思ったことが顔に出たのか、僕の顔を見上げてぼーさんはゲラゲラ笑い、そのまま派手なクラクションを鳴らして走り去って行った。