盗み聞きするつもりは毛頭なかった。 だから、その電話の内容を聞いてしまったのは、全くの偶然だった。
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人気のない非常階段で、夏目はいつもの煙草を吸いながらどこかに電話を掛けていた。
『 ごめんね?怒らせるつもりはなかったんだ。 違う、怒っているんじゃないよ。ただ、びっくりしちゃって・・・・・・そう、びっくりしたの 』
そうして電話の相手に向けて、いつもの、甘くとろけたような声でそう言った。 それからいくつかの短いやり取りの後、夏目はため息をつくように長い話を始めた。
『 昔ね、すっごく好きな人がいたんだけど、彼女は君みたいに " 本格的な孤独 " を知ってる人で、人が大好きなくせに人が信用できなくて、どうしても内側まで近寄らせてくれなかったんだ。 そうだねぇ、ただ単に俺がそこまで好かれていなかった、むしろ嫌われていただけなのかもしれないけどさぁ、それが俺はとっても悲しくてねぇ ・・・・ 色んな風に悪あがきしたんだけど、結局最後まで彼女は僕を受け入れてくれなかったんだ。俺は恵まれた、違う人だからって。 そう言われて本当にやるせなかったよ?俺が幸せだったのは俺のせいじゃないからね。うん・・・・・別にそれが嫌だとか、ありがたいと思っていないってわけじゃないよ。うん・・・心配しなくていいよ?そんなこと思ってなんかないから。やだなぁ、俺、まるで信用されてねぇでやんの。 でもねぇ、だからこそ俺は幸運にもそんな目にあってこなかった自分の幸福さが後ろめたくて、それでいて " 本格的な孤独 " を知る人がとっても羨ましかったんだよ。 それを知って、共感できるなら、これほど酷い孤独感は感じなくて済むだろうって・・・・アホだね。 でもさ、一人切りで感じる孤独と、相手がいて感じる孤独って違うって思っていたから、これはこれで切実だったんだよ? うん・・・・そうだね。代わりにはならないんだけど、トラウマになるくらいには本気だったんだよ。だからあんな曲を作って、いつまでもいつまでもみじめったらしく弾いてんの 』
何事かを話す相手に、夏目は声にならないくらい低い頷きを返し、それから自嘲気味に笑った。
『 ご静聴ありがとう 』
それから夏目はため息を一つついて、熱心に電話口に語りかけた。
『 ごめんね? 』
言い返しているであろう電話口の相手に、それこそ何度も何度も繰り返しその言葉を呟き、それから軽く笑ってその理由を口にした。
『 そうだねぇ、俺に謝られても仕方ないよねぇ。でも、せめて言わせてよ。 俺は、できたら誰にもそんな風に孤独を悲しんで欲しくはないんだよねぇ。同情のつもりはないんだけど、迷惑? 』
何と返されたのか、その後の返事に夏目は君は素直でたくましいと、声を立てて笑い、それからしばらくの沈黙の後、夏目は苦しそうに呟いた。
『 どうしよう、俺。できたら君の側にいたいや 』
それから誤魔化すように細く笑い声を上げ、いつもの口調で軽口を叩いた。
『 年季入ってるし、きっと俺は温かいよ?うん?そうだよ、口説いてんの。やだなぁ、本気だよ? うん、冷たい彼氏がいるの知ってるし、君の側には強力なお父さんがいるのも知ってるよ 』
さらに、そうかと思うと直ぐに語調を落とし、夏目はまるで泣き出す寸前のような熱っぽい声で言った。
『 でもさ、頑張っていいんだったら、そのチャンスを俺にくれない? 』
晴天の霹靂もかくやの不意打ち。 ガラ空きだった場所への強烈なボディブロー。 その威力に一気に血の気が引いて、呼吸はもちろん止まった。 間の悪さへの罪悪感から、その場でぶっ倒れなかっただけ拍手ものだろう。 滝川はまるで力の入らない足をなんとか動かし、混乱する頭を抱えたままその場を後にした。
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嘘ダロ? オイ