タイトル: 久し振り

本 文 : 今バイト中? 忙しいか?

 

 

タイトル: 本当に久し振り!

本 文 : うわぁ、ぼーさん久し振り!元気だった?仕事忙しいみたいだね。 

       私は今バイト中だけど、こっちはすっごい暇だよ(-。−;)

 

 

タイトル: RE;本当に久し振り!

本 文 : 忙しいちゅうか待ち時間が長くてよ、中々渋谷まで行けないんだよ。

       娘に会えなくて父さんは寂し死にしそうだよ。

 

 

タイトル: RE;RE;本当に久し振り!

本 文 : ほっほっほ♪( ̄▽+ ̄*) 

       しょうがないなぁ。それじゃぁ私がそっち行ってあげようか?

       今日は綾子が差し入れてくれた手作りクラブサンドもあるんだよ☆ 

       量が多いから分けてあげるよ。

  

   

タイトル: RE;RE;RE;本当に久し振り!

本 文 : マジで? だったらスタジオまで来いよ。******前ならわかるか?

       そこまで来たら迎えに行くから!一緒に綾子の飯食うべ!

      

 

タイトル: RE;RE;RE;RE;本当に久し振り!

本 文 : OK♪ それじゃ、今日はバイト早めに切り上げてそっち行くね。

  

 

タイトル: RE;RE;RE;RE;RE;本当に久し振り!

本 文 : おう、気をつけて来いよ。

  

         

    

 

  

  

 Sandwich
砂と魔女以外は挟んでしまおう

  

 

   

   

    

  

「あ〜、何か、ノリオいいもん食べてるぅ」

 

 

 

いつもの、気の抜けた炭酸のように甘だるい夏目の声に、滝川は口の中いっぱいにサンドウィッチを詰め込んだまま、いしししっと気味の悪い声で笑った。

「うらやましい?」

「うらやまし〜」

コーヒー片手に近付いて来た夏目に、麻衣は慌てて頭を下げた。

「あ・・・夏目さん、お久し振りです」

「谷山さん? 来てたんだねぇ・・・それで、コレは差し入れかな?」

「あーリュウ!!!勝手に食うなよ!」

「けち臭いこと言わないでよぉ」

夏目はそう言うが早いか控え室のテーブルに広げられたバスケットからサンドウィッチを一切れ抓み、ぱくりと噛り付いた。それからもぐもぐと咀嚼しながら、首を傾げた。

「手作りで・・・・・中々手の込んだものだね。バタールもいいもの選んでるし、チーズはフロマージュ、隠し味にドライフルーツまで入ってる。シロートでここまでできるのは見事だねぇ。谷山さんって料理上手なんだ。美味しいよ?」   

へにゃんと相好を崩して微笑む夏目に、麻衣は恥ずかしそうに俯いた。

「いや、すみません。コレは私が作ったんじゃなくて、料理上手の仕事仲間が作ったんです。いっぱい貰ったからちょっとおすそ分けに持ってきただけなんで・・・・」

「あ、そうなの?」

夏目はあっさりとそれに頷くと、滝川の攻撃をかいくぐりながら2つ目のサンドウィッチに手を伸ばした。

「リュウ!!」

「いいじゃん、ぼーさん。コレだけいっぱいあるんだから」

「そうそう」

「麻衣、お前はリュウを甘く見てる!!これだけひょろっこい体してるけど、こいつはバカみたいに山ほど食うんだよ」

「酷いなぁ」

「そうだよ。食い意地張ってんのはぼーさんの方じゃん!恥ずかしいなぁ」

「そういう問題じゃねぇんだよ。ほらほら、麻衣も負けずに食え」

呆れたように眉尻を下げる麻衣に、滝川はそれは違うと大仰に手を振りつつ、バスケットに残っていたサンドウィッチを掴むと無理やり麻衣の口元に差し出した。

「言われなくても自分で食べますぅぇ!ちょっと!! 人の口に突っ込もうとするのはやめれぇ!」

麻衣は慌てて顔を背けたが、滝川は空いた手で麻衣の頭を固定すると口に卵たっぷりのサンドウィッチを押し込み、それを掌で抑えながら満面の笑みを浮かべた。

「はい、おいしいねぇ?」

「ほーひゃん!」

大騒ぎしながらサンドウィッチをほおばる親子に、夏目は目を細めながら着々とサンドウィッチを胃に収め、都合5切れを早々に食べ終えると、カップに残っていたコーヒーでそれを飲み下した。

そしていつまで経ってもテンションの下がらない滝川を頬杖つきながら眺めた。

 

「谷山さんっていいねぇ」

 

ぽつり、と、呟かれた一言にそれまで互いの手元に夢中だった滝川と麻衣は動きを止め、何事かと夏目を見遣った。その視線に対して、夏目はにんまりと微笑んだ。

 

「谷山さんいるとノリオが元気になっていい」

 

そうして無理に飲み込んだサンドウィッチにむせている麻衣に備え付けのお茶を勧めながら、内緒話でもするかのように声を潜めて囁いた。

「あのねぇ、ノリオって本来ライブ大好きだから、こうやってスタジオに篭って音源取ったりするの苦手なんだよ。それなのに毎日こうやって長時間缶詰状態で最近かなりストレス溜まっていたんだぁ。ノリオって気合でなんとかするタイプだから、そうすっと段々音も濁ってくるんだよねぇ」

「ほぅなんですか?」

一息に飲み下せないパンをもごもごと食べながら、麻衣がきょとんと目を丸くすると、夏目は糸目になる程目を細めて頷いた。

「そう、ノリで生きてるベーシストだからね」

「リュウ!」

「事実じゃんか」

「へぇぇ」

「麻衣!コイツの言うことなんか信用するんな!!」

話を遮るように声を張り上げる滝川を麻衣はにんまりと笑いながら見上げ、それからごっくんと口の中のものを飲み込んでから夏目を見つめた。

「うちの父がご迷惑おかけしてます」

「いえいえ、お互い様だから。あ・・・・でも」

「何ですか、夏目さん?」

「一応ね。芸名はリュウだから、リュウにして。夏目ってなんかこそばい。ノリオはぼーさんで似合ってるからイイけど」

「あはは、そうなんですか?それじゃ遠慮なく、リュウさん」

「はいはい」

夏目は朗らかに微笑みながら麻衣を見つめた。

「だからねぇ、時間があったらちょくちょく遊びに来てくれるといいなぁ」

「ここに?」

「うん」

「それは・・・・私はいいですけど、お仕事の邪魔になりますよね?」

「スタジオまで入られたり、騒がしいなら邪魔だけど、こうしてる分にはいいんじゃない?どうしても気になるなら、またこうして差し入れしてくれると嬉しいし、入館のパスくらいなら取っておくよ?」

夏目はそう言うとゴソゴソとポケットを探り、中から出てきたレシートの裏に短いペンでアドレスと番号を書き込んだ。

「はい、コレ俺の携帯番号とアドレス。ノリオと連絡つかなかったらこっちに電話してくれればいいよ」

麻衣は差し出された紙を素直に受け取ると、傍らで難しそうな顔をしていた滝川を見上げ、おずおずと尋ねた。

「ぼーさん、迷惑?」

見上げる鳶色の瞳はスタジオという見知らぬ環境に好奇心いっぱいの子供のように輝いていたのだが、その裏によぎる遠慮しいの影を滝川が見逃すはずもない。

普段は元気過ぎるほど元気なくせに、土壇場になると開き直るまですっと自信をなくしてしまう寂しがり屋で自信のない麻衣が顔を出す。それは悪い癖だが、だからといって非難するものでもない。常であればそれを麻衣に感じさせる前に滝川はあれやこれやと手をつくし、構い倒して霧散させる。

だからこそ、ここ最近寂しい思いをしているであろう麻衣が気になりつつも、側にいけない自分自身の環境にイラついていたのも事実だ。

滝川ははぁっとため息をつき、それからぼそりと夏目の提案を肯定した。

  

「差し入れ何かはいらねぇよ。娘が来てくれるだけで、父さんは嬉しいから」

  

ぱっと花が咲くように顔をほころばせる麻衣に、滝川は参りましたとばかりに口元を歪め、栗色の髪をがしがしと乱暴にかき混ぜた。 

 

 

 

 

 

 

 

「 グッジョブ、俺 」

 

完全に防音された狭いスタジオで、夏目はギターをチューイングしながらそう一人ごちた。

それを耳聡く聞きとめ、滝川は顔を顰めつつ夏目が座っていたパイプ椅子の足を蹴った。

「何がグッジョブじゃい」

「いいだろう?これでかわいい女の子との接触が増えるんだ。 ありがとう、って言いなさい」

「余計なお世話!」

「そう?」

含みのある細目に、滝川は口をへの字に曲げながら肩を竦めた。

「あんなぁ、リュウがどう思おうと勝手だけどよ、俺と麻衣はそういうんじゃないからな?!ガキみてぇにお膳立てしてやってるって喜んでいるなら本当にスジ違いだから!」

「素直じゃないなぁ」

「お前は人の話を聞け!!第一麻衣にはちゃんと彼氏がいるし、俺らとは9つも歳が違うんだから!」

そう吐き捨てると背中を向けた滝川に、夏目は口を尖らせ、ギターの弦を指で弾いた。

 

「 何ソレ、つまんねぇ理由 」

    

滝川の主張を無視して、夏目はそう呟くと修正ばかりのスコアに視線を落とした。