#015
同罪
いかに男女の差があっても、女を押し倒すにはそれなりの労力が必要だろうと思っていた。
けれど、それは実際にやってみると、桜の枝を折るよりまだ簡単だった。
ジョージ・ワシントンに諭されるまでもない。
愚かさはそれ以上だろうと分かってはいる。
ソファに広がる蜂蜜色の髪に、女を組敷く細長く、節くれだった男の手。
それらが暗示する不快な記憶に、強烈な嫌悪感がナルの胸をいっぱいにした。
けれどそれが表層に現われることはなく、麻衣が見上げる顔はどこまでも無表情で、どんな感情も読み取れなかったに違いない。
怯えたような鳶色の瞳が、先の言葉に疑問を投げた。
ホットラインもないというのに、誤差なく伝わる考えに、ナルは僅かに首を傾げた。
「ジーンがそう言っていた」
――― 麻衣は残酷。
「ジーンを酷いと思うなら、麻衣、お前も酷いものだな」
――― 僕が好きなくせに、ナルのことも好きなんだよ。
「そして僕も酷いものだ」
「 それを言うなら僕も同罪ってこと? 」
涼やかな声が背後から空を切った。
自分の下でびくりと身をすくめる麻衣に厭わしさを感じつつ、ナルは不愉快な感情を隠そうともせず、わずらわしげに声がした方を振り返った。
玄関とリビングを隔てる一枚ドアの前には、漆黒の髪、黒檀のような瞳、白皙の美貌を併せ持つ、たいそう見目麗しい男が一人、腕組みをしたまま立っていた。
そして、その口元は残忍なまでにまがまがしく弧を描き、闇をこらしたような瞳は愉快そうな色を含んでいた。